工具の改良
1.ねらい
生徒に作業をさせていると、時に冷や汗が出るようなときがあります。例えばボール盤作業では、材料の固定が不十分で材料を回転させてしまった時などは本当に危険です。けがをしなかったのを確認してほっと胸をなで下ろす、ということを経験しなかった教師はいないのではないでしょうか。ボール盤作業が、生徒にとって少しでも安全にできるように、市販のドリルの刃先の改良をしたり、また便利な工具を使用することはとても大切なことです。
少しの工具の改良や治具の使用で、ベテランでも難しい作業をやさしいものにする例が多くあります。初心者でも、安全で正確に作業ができるようになる工具や治具の一例を紹介します。
2.工具の改良
(1) ボール盤作業を安全にする工具
a.金工用ドリルの改良
ボール盤作業で、材料が回転してしまう原因の多くは、材料の固定が不十分であることです。しかし、生徒の作業では固定が不十分になることも十分に予測していなくてはなりません。
ここでは固定が不十分であるということよりも、ドリルが材料に食い込んでいく力が大きすぎることが原因として考えることにしました。つまり、ドリルの食い込む力とドリルの送りが合致しないとき、材料がドリルに巻き付いてきて、最後には材料が回転してしまうという観点で、この問題の解消を図ってみましょう。
ドリルを使用して材料が回転するのは、次の3つの場合に多いことが経験上でも分かります。
・材料が薄い場合
・材料が柔らかい場合
・材料からドリルが抜けでる瞬間
これらはいずれも、ドリルが必要以上に材料に食い込んでいくことによって発生します。例え購入したばかりの刃でも、ドリルの刃先を鋭利に研いでみても、ドリルの回転を変えたりや送りを小さくしても、やはり多少は発生してしまいます。
・一般的なドリルの刃先の改良
ドリルの食い込みをなくすことに着目して、図のようにドリルの刃先の刃を削って改良します。切れ味や精度はよくはありませんが、食い込みが悪いので回転事故はほとんど解消できます。
研削には、ベルトサンダーか組やすりを使うとよいでしょう。
・市販の便利な工具を使う。
市販の薄板用ドリルを使うと、回転事故はある程度防ぐことができます。
また、この食い込みは、ドリルの径が大きいほど発生しやすいので、比較的小さなドリルで下穴をあけて、大きなドリルであけなおしたり、またリーマや段付きドリルを使うと、ある程度防ぐことができます。
・木工用ドリルの改良
木工用のらせんぎりには先端に食い込みねじが付いています。ボール盤でこれを使用すると、食い込みが大きく、非常に危険となります。そこで食い込みねじ部を、図のようにやすりで研削して取り除いておくと、食い込みがなくなって安全に穴あけができます。
最近では、市販のもので、ネジ部のないドリルも発売されています。
この改良ドリルで穴をあけるときには、円錐部の先端が板を突き抜けたところで一旦中止し、板を裏返してからあけるときれいに穴あけができます。
(2)まっすぐにねじを切る
a.ガイド付きダイスハンドルの開発
ア.材料
・φ24のソケット
・φ24のボルト
・φ5のボルト2本
イ.工具
・旋盤、ボール盤
・バイト、センタドリル
φ4.2ドリル、M5タップ
・M5用であればφ5.1ドリル、M6用であればφ6.1ドリル
ウ.製作
・ソケットの加工は、φ4.2 のドリルで穴あけをした後、M5のねじ切りを2ヶ所おこないます。ソケットレンチは薄くまた硬いので、タップはまっすぐたて、油を差しながらていねいにネジキリしなければなりません。
・ガイドゴマの加工は旋盤で旋削した後、穴あけを施します。この穴は、ねじの径に合わせて作ります。
エ.使用方法
棒材を万力に固定し、ダイスをつけたガイド付きダイスハンドルを回転するだけで、だれでも正しいねじ切りができます。最初のねじの部分さえできれば、後は普通のダイスハンドルに変えてもいいでしょう。ただし、あまり短い棒材ではできませんので、短い棒材の時にはもう一工夫が必要です。
b.タップ用ガイドゴマの作製
タップを垂直に立てるために、ガイドをこしらえました。ボール盤で穴あけ後、ボ−ル盤のドリルをタップに代え、慎重にねじを切って製作します。
簡単な治具ですがかなり正確にタップをたてることができます。
c.市販の便利な工具
自作することができない人は、同じ原理のものが市販されていますので利用するのもよいでしょう。
左図(トップマン12、000円)のものは、まっすぐにねじを切るだけでなく、球形材や丸棒材に穴をあけることもできます。
d.折れたタップを抜く工具
タップの頭が出ている場合は、ペンチでつかんで回したり、センタポンチとハンマでコツコツとたたいて回すことができます。しかし強くかんでいてタップの頭が出ていない場合は、市販の折込みタップ抜き(2300円)を使用してみましょう。
3.まとめ
生徒によいものを作らせるには、それ相応の工具・機械と治具の準備が必要です。特に、不器用で手先の微妙な感覚の違いが認識しにくい生徒には、安全に機械や工具が使用できるようにしてやりたいとものです。
ホームセンターなどで、いろいろな便利な工具や治具が市販されているが、学校現場に適した改良は、やはり教師自身が考えていきたい。